犬公方と揶揄された徳川綱吉は,それまでの日本人の価値観を180度変え,今日に至ったという点で,もっとも重要な将軍だ。それまで戦国から続いた価値観を一変させ,この極東に世界で類を見ない社会を作り上げることになった。番組では触れられなかったが,松の廊下の浅野内匠頭による刃傷も,彼が改めようとしてきた,抑えのきかない乱暴者の武士がふっかけた喧嘩として,彼の目からは即断・処罰の対象だったのだろう。そのように価値観を変えようとした人物は,旧勢力からは迫害され貶められるのは当然だ。今日の「格差容認」「弱者切捨」などなど,生産性のない人間は不要という社会観の浸透は,綱吉以前の「捨て子」「捨老」「捨て病人」,あるいは武士に見られた向こう見ずな闘争行為を再び復活させようとしているようにも見え,革新者としての綱吉にますます興味を持たされる。