三谷幸喜といえば代表作としてあがるのが古畑任三郎、推理ドラマの形態としてはコロンボタイプで予め犯人を視聴者に教えた上で犯人が追い詰められる様を楽しむものである。そして、今回の原作はアガサ・クリスティのMurder on the Orient Express、エルキュール・ポアロシリーズの8作目でポアロシリーズの代表作の一つである。ポアロ(ドラマ内では日本人だが)は典型的な安楽椅子探偵で、人との会話の中で犯人を探っていくスタイルは古畑任三郎と同系統であることから今回のコラボにも期待が持てるというものである。
第一夜を見終わったレビューとして、どちらかと言うと失望感を表したものが多かったように思う。実際のところ、この事件のトリックの巧みさは表面的には平凡そのものである。また推理の巧みさも、ややもすれば取ってつけた感がするかもしれない。にも関わらず、どうしてこの作品が名作と呼ばれているのか。
通常の推理モノは、探偵の推理場面の前に全ての食材が視聴者に提示される。そしてその食材を探偵がどれだけ巧みに調理するかを楽しむのが醍醐味である。しかし、本作はすべての食材を視聴者に提示せずにクライマックスを迎える。だからこそがっかりしてしまうのだ。ここで食材をすべて提示しない理由は演出上の理由もさることながら、まさに食材こそが本当のクライマックスであるためだ。
この作品の正しい見方は、
まず第一夜をざっくりと見る。ながら見でも良い。次に第二夜を見る。
そして、第一夜を見返す。この3ステップを経て初めて第一夜を推理モノとして楽しめるのだ。そして、その時こそようやくこの作品が不朽の名作であることを理解できるだろう。